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ふと気づくと自分が立っているのは渋谷かなんかのクソでかいスクランブル交差点の上だった。
小一時間前に僕が書いたばかりの、顔のないサラリーマンや制服だけの女子高生といったヘッタクソなガヤたちが島縞模様のアスファルトを闊歩するなかで、
スクランブルの中心にあるダイヤモンドの上には、僕とアメリカンズタボロしか立っていなかった。
アメリカンズタボロは、まだ怪人に襲われていない段階であると思われる、いくらかきれいな描写の町のなかにあっても、
やはり腸から心臓から何から何までズタボロに引き裂かれた、あのままの姿であった。
唯一変わった部分があるとすれば、四足歩行の動物らしからぬ直立不動でその場に在ったことぐらいだった。
「俺らの世界へようこそ、なんてロマンチックな台詞でお迎えしたいところだが。」
執事のように胸に手を当てて上品に会釈をしたアメリカンズタボロ。が、そのあと上げた顔はまるで完全に主導権を握った拷問官のような、愉悦に染まった笑顔であった。
「とりあえずお前には、俺ら『死に役』………特に俺の旧知の仲の動物どもによる、
俺らが被った理不尽を体験してもらうことにする。
考え無しに適当に死に役を書きたくったしっぺ返しとでも思ってくれればいい。
これによってお前が自分の書く漫画の無茶苦茶さとリアリティーの無さに気づいてくれればこんなにありがたいことはない。
では、楽しんできてくれ。」
それだけを告げると、アメリカンズタボロは空へ飛び上がってどこかへ消えた。
僕が空をふり仰いだころにはもうそこに彼の姿は髭ひとつのこっていなかった。
が、かわりに、その彼の消えた空から急降下してくるゴマ粒のような黒い物体の姿を、僕の目は捉えた。
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