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ガチャガチャと玄関の鍵を開ける音が響く。
時計に視線を移すと、いつの間にか21時を回っている。
「ただいまー……」
真っ暗な寝室の入口へ足を踏み入れる郷ちゃん。
「……ご飯、出来てません。ごめんなさい」
「いーよー……どした?」
ひとまず起き上がったが、わたしはベッドの上に座り込み、顔を俯かせていた。
「…………時給、下がっちゃった」
「……時給? 時給って下がることあんの?」
その疑問は至極当然であろう。
「……無理かも。どうやって保ったら良い? ふざけてるよね」
遅くまで働いて来てお腹空かしている人に、何をいきなり愚痴っているのか。
「……仕事、辞める?」
体を折り曲げベッドに伏したわたしの側に腰掛け、静かに言う。
「……全部終わりにして失くなりたい」
「全部終わり」
簡単に続けられた言葉に、かっとなり声を荒らげた。
「何でそんなこと言うの」
「……全部終らせてリセットしてまた始めよう」
後付けのような言葉をつぶやく彼。
わたしはむくりと体を起こすとそのまま後ろに倒れ、呆けたように天井を見つめた。
瞼を閉じ、顔の上で手を握る。
「……嫌でしょうこんな暗くて重い奴。わたしなら嫌だ。わたしなら受け止められない、こんな奴」
「……仕事の人間関係より全然平気」
瞼の奥で、スーツ姿のままわたしの隣に横たわった彼を感じ取った。
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