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誕生日おめでとう、と男が言った。
しかし、誕生日というものが何なのか、僕にはよく分からなかった。
「誕生日というのは、生まれた日のことだ」
僕は自分の生まれた日を知らない。暖かな春の日だったように思うが、どの日かまでは分からない。獣にとって、自分がいつ生まれたかどうかより大切なことはいくらだってある。
君が兎として生を受けた日のことは俺も知らないが、と彼は言った。
「あやかしとして生まれた日のことならよく知っている。ちょうど一年前の今日だ」
初夏の夜、涼しげな風が吹き抜け、蛙がひっきりなしに鳴き続ける中で。僕は、死ぬはずだった。ただの兎だった僕をつくりかえたのは──彼だ。
あやかしとしての誕生日、と僕が呟くと、そうだと彼が頷く。
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