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「どきな」
奈緒がギターを構えた。
「どきませぇ~ん。チケットみせてくださ~い」
売り子が抵抗する。
流れ作業の疲れからか、その滑舌には覇気がない。
正直かったるいけど最低限の仕事はこなしたい――チケット売りのわずかなプライドだけが、売り子の身体を動かしていた。
しかし、ライブチケットの提示など、殴り込みに来た三人に対しては意味のない催促である。
「天国行きのチケットならあるけど、どうする?」
奈緒のうしろでレイが提案する。
「天国……?」
売り子の思考が止まる。
売り子は前々から、フリーダムな世界に憧れを抱いていた。
それがいけないことだとは、頭でわかっていながらも。
「ふぅん、なるほどね」
左手でギターのネックをつかむ奈緒。
「あたしがあんたに自由をあげるわ」
その右腕をだらりと下ろし、
「でもこれは、ただの権利。選択するのはあんただよ」
手前に引いた。
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