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「…………」
なにか思い残すことがあったのか――
売り子のくたびれたポケットからは、半額シールのついた一個のおにぎりが、涙のように零れ落ちた。
「おっ」
グレンGがためらいなくそれを拾う。
「やめなさい。盗みはロックじゃないよ」
レイが警告する。
しかし次の瞬間。
グレンGは、そのオニギリをビニールごと噛みちぎった。
「それはおまえのロックだろ? おれにはおれのロックがある。自分のロックを他人におしつけるのが、おまえのロックなのか?」
少し考えたあと、レイは足を進めた。
「それもそうね。ゴメンアソバセ」
安らかに眠る売り子を横切り、奈緒も後に続く。
「……じゃあね」
かくして三人は、『イヌゴヤーン』へと会場入りを果たした。
奈緒がギターを肩に下げる。
「行き場をなくしたケモノたちのニオイがするわ」
レイがベースを胸に抱く。
「アタシたちの音楽が、アロマの代わりになるかもね」
グレンGがオニギリを噛みしめる。
「さっさとおっぱじめようぜ。この米の甘味が消えねぇうちにな」
嵐の夜が、はじまった。
『KAMASE-DOGMANS』
ジャンル:パンクロック
罪状:???
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