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ライブハウス『イヌゴヤーン』に侵入を果たした三人は、そのステージへと上がるべく舞台袖を目指していた。
ステージ裏の薄暗い廊下には、野犬の群れが鳴き叫んでいるかのような轟音が響き渡っている。
そう。今まさに、駆け出しのパンクロックバンド『KAMASE-DOGMANS』がステージ上で暴れまわっている最中なのだ。
奈緒たちは、そこへアポなしで乱入して自分たちのライブを勝手に始めようとしているのだから、当然周りにいたスタッフたちが黙っているわけがない。
「おいおいなんなんだ君たちは!? どこから入ってきた!?」
廊下にいた六人ものスタッフが、奈緒たちの前にたちふさがった。
「うるさい」
冷めた目つきで言葉を返す奈緒。
ついでに相手を一瞥する。
アマチュアのステージにしては常駐するスタッフの数が多い。『KAMASE-DOGMANS』の観客動員数は意外にも高いようだ。
スタッフたちは全員髪の毛ぼさぼさで、青春とはとっくにおさらばしたような風貌をしている。その身には、おそらく売れ残るであろう物販のブサイク犬Tシャツを着ている。似合っているとか似合っていないとかそういう次元のものではないくらいに、ださい。
「あわれだわ」
奈緒が、我慢できずに言いもらした。
「あわれだね」
レイもそれに同調する。
「泡洗剤でも食らってな」
グレンGも同調した。
やはりそれを気にしていたのか、激昂したスタッフたちは目の色を変えた。
大のオトナ六人が、三人の女子高生を囲い込む。
小汚いライブハウスで死んだ魚のように働く彼らにとって、大人のプライドなんてものは、とうの昔に捨て去ってしまった過去の飾りものであった。
「でもさ、あんたらからは、あたしらと同じニオイがするよ」
奈緒がギターを揺らめかす。
「なんだと?」
「ロッカー特有の、汗くさいニオイがね」
くるりと回って、弦を弾いた。
『♪夢に溺れて洗濯槽』
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