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平日の真っ昼間――。
東京都シブヤアの雑踏を、奈緒は歩いていた。
駅前のスクランブルエッジ交差点では、不倫に走る人妻や、牛丼屋を探すリーマンたちのざわめきが今日も溢れ返っている。
奈緒はそれを、『雑音』と呼ぶ。
それに対し、奈緒はいつも両耳をイヤーフォンでふさぐ。
〈♪わんにゃん、わんにゃん、ほいっちに、さんし!〉
この日、奈緒が聴いていたのは、この春から放送開始された子ども向け教育番組のオープニングテーマソング『わんにゃん体操』にほかならない。
「この曲さいこ~」
ロックな彼女がこのようなポップソングをチョイスするのには理由があった。
それは、かの有名なあの伝説のロックンローラー《テッヅ=カオサム》の、『ロックになりたいならロックを聴くな』という格言に酔狂しているからである。
この言葉の意味は、オリジナリティのある音楽を創造するためにはそれ以外のものからインスピレーションを受けるべし! というようなニュアンスである。
だから奈緒は、自分以外のロックを聴かない。
たいてい聴いているのは、落語家のCDや、虫が嫌がる高周波音などである。
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