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「んっ……」
平日真っ昼間の生あたたかい空気の中で聴く『わんにゃん体操』は、奈緒のとげとげしい心を柔らかくほぐした。
七週間。
この数字は、奈緒が連続で学校をさぼった日数である。現在も記録は更新中。
奈緒は17歳の現役女子高生だが、昼間は学校に行かない。
そのことについては、『奈緒が生粋のエンターテイナーである』という事実が根底にある。
授業をエンターテインメントに例えるならば、教師は演者であり、生徒は観客である。
奈緒は観客ではない。ステージにいるべき存在だ。
しかし、教壇というステージへ上がるためには高倍率の公務員試験を勝ち上がらなければならない。
それは、学力偏差値マイナス69相当の奈緒にとっては無縁な話であった。
「あたしにはロックがある」
したがって奈緒は、学校へ行かない。
おとなしく座って授業を聞くことはロックじゃないからだ。
同時に、自分がいることで授業中の雰囲気が重苦しくなってしまう――真面目に授業を受ける生徒たちへの静かなる配慮でもあった。
誰かを思いやる気持ちに、言葉など必要ない。行動で示す。
それがロックなのではないかという結論に、奈緒は誰よりもはやくたどり着いていた。
(誰もあたしを縛ることはできない。あたしは究極に、自由)
ちなみに、授業が終わり放課後になると、奈緒はようやく学校へと向かう。
そして部室に直行し、バンドの練習を始める。
しかしこの日に関しては、放課後も学校へ行く予定はない。
なぜならば今夜は、奈緒がフロントを務めるガールズロックバンド『デスペラードン・キホーテ』の記念すべき初ライブだからだ。
つまり今現在、奈緒は会場の下見のため、東京都シブヤアの小さなライブハウス『イヌゴヤーン』へと足を運んでいる次第である。
「楽しみだわ」
この日の奈緒は、ちょっとうきうきしていた。
――トラの胃を狩るキツネみたいに。
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