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やがてシブヤアの街は夜を迎えた。
ごった返した中央通りに、ぼやけたネオンサインが乱雑に散らばる。
「あたしは今夜、鬼になる」
その中から朦朧と姿を現したのは、念願の初ライブを目前に控えた折田奈緒であった。
まるでマサカリを担いだ金太郎のごとく、相棒の《ライトニング・テレキャスター》を肩に乗せて歩いている。
その後、ドラッグストアでレイと、
「お金もってくんの忘れちゃった」
ハンバーガーショップでグレンGと落ち合う。
「なんでラーメン売り切れなんだ?」
無事に合流を果たした三人は、シブヤアの小さなライブハウス『イヌゴヤーン』へと足を運んだ――
当然、殴り込み。アポなど取っていない。
『予定を組む』という概念を、彼女たちは持ち合わせていなかった。
やりたいときに、やりたいことを、やりたいようにやる――代わりにあるのはそんなポリシー。座右の銘は、『自由の女神よりも自由』である。
殴り込まれる側からしてみれば、大金をはたき、客を呼び込み、真面目に予定を組んでライブを楽しんでいるのだから、たまったもんじゃない!
そんな今夜のかわいそうな犠牲者は、駆け出しのパンクロックバンド『KAMASE-DOGMANS』。
ギターボーカルの鎌瀬ユキナリ(24歳)が、犬の散歩中に出会ったメンバーで結成したという新進気鋭の三人組。
『犬の鳴き声をカラダで表現したい』という信念のもと、四つんばいで演奏するという型破りな音楽性で全国の愛犬家たちのハートをつかみ、確かな演奏力とやさぐれたルックスも相まって、いま、着実に人気をつけてきている話題の筆頭である。
そんな、まさにこれからというときに、彼らは犠牲者となる。
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