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『イヌゴヤーン』の入り口には、ひとりのチケット売りが立っていた。
このチケット売りという仕事は、提示されたチケットをちぎるだけの簡単なお仕事――つまり、アルバイトである。時給は、ちょっと高めの1350円。
「らっせぇ~」
売り子(21歳)は、生活費に困っていた。
高校卒業後、幼いころから抱いていた都会暮らしへの憧れを実現すべく田舎から東京に出てきたはいいものの、その高い家賃からすぐに生活苦に陥った。
売り子のアルバイト暦は長い。
正社員は視野になく、短期バイトで日銭を稼いで東京のまちをぶらつく、という生活が何年も続いている。
目的も目標もない人生。あるのは『遊びたい』という気持ちだけ。
遊びたい。けどお金がない。働きたくない。だけどお金のために働く。そのあと遊ぶ。またお金がなくなる。働きたくないけど働くがすぐやめて遊ぶ。働く。遊ぶ。遊ぶ。働く。働きたくない。しょうがないけど働く。遊びたい。もっと遊びたい。
出口の見えないそんなループに、売り子自身もちょっと疲れていた。
――そんな矢先の出会いだった。
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