パステル

2/18
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
     / / /  小さな子供たちが泣いていた。  今にも隠れてしまいそうな夕日に、長く伸びた影。  空はオレンジと黒のコントラスト。夜の帳はすぐそこ。  子供たちにとって、そこは見知らぬ場所。右を向いても左を向いても見知らぬ景色。  見た事もない場所へ続く小さな交差点、隅っこに蹲った幼い少女が声を上げて泣いている。  少女の傍に立つ幼い少年が、途方に暮れたように立ちつくし、声を殺して涙ぐんでいる。   ――帰り方なんて、分からない。 「…ほら、たてよ。はやく、かえんないと…」  少年が目元をごしごしと拭うと、震える声で少女を奮い立たせようとする。  早くしないと、夜になってしまう。  夜は――見知らぬ夜は、怪物がうろつく危険な場所。子供心にそんなふうに思えていた。  しかし、少女は首を振る。 「ひっく…もう、やだぁ…ぃぐっ…つかれた…あし、いたいよぉ…あるけないもん…っ!」  もう何度目かの同じやり取りだった。  幼い少年には、我慢の限界だった。 「っ…! お、おまえがっ、こっちだっていったからだろ!?」  声を荒げる。少女はびくっと震えて、蹲った体をさらに小さくしながら頭を抱える。 「おまえが、あ、あっちいってみようって…! だからみちわかんなくなったんだろ! まいごになったら、お、おまわりさん、にきこうっていった、いったのに、おまえがこっちだって! だ、だから、だから…! おまえのせいだろ!」  少女にとって自分をそんな風に怒る少年の姿は初めてで、泣き腫らした瞳で弱弱しく顔を上げ、だって、だって、と声を漏らす。 「だって…うぐっ…だって、あ、あた、しのせい、だかっ…だから…だから…だからあっ、あたし…あたしが…っ…て…!」  少女が何を言いたいのか、少年には分からない。ただ、ぐずっている事だけは分かった。イライラしていた。少年は初めて、本気でこの少女が嫌いになりかけていた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!