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小さな子供たちが泣いていた。
今にも隠れてしまいそうな夕日に、長く伸びた影。
空はオレンジと黒のコントラスト。夜の帳はすぐそこ。
子供たちにとって、そこは見知らぬ場所。右を向いても左を向いても見知らぬ景色。
見た事もない場所へ続く小さな交差点、隅っこに蹲った幼い少女が声を上げて泣いている。
少女の傍に立つ幼い少年が、途方に暮れたように立ちつくし、声を殺して涙ぐんでいる。
――帰り方なんて、分からない。
「…ほら、たてよ。はやく、かえんないと…」
少年が目元をごしごしと拭うと、震える声で少女を奮い立たせようとする。
早くしないと、夜になってしまう。
夜は――見知らぬ夜は、怪物がうろつく危険な場所。子供心にそんなふうに思えていた。
しかし、少女は首を振る。
「ひっく…もう、やだぁ…ぃぐっ…つかれた…あし、いたいよぉ…あるけないもん…っ!」
もう何度目かの同じやり取りだった。
幼い少年には、我慢の限界だった。
「っ…! お、おまえがっ、こっちだっていったからだろ!?」
声を荒げる。少女はびくっと震えて、蹲った体をさらに小さくしながら頭を抱える。
「おまえが、あ、あっちいってみようって…! だからみちわかんなくなったんだろ! まいごになったら、お、おまわりさん、にきこうっていった、いったのに、おまえがこっちだって! だ、だから、だから…! おまえのせいだろ!」
少女にとって自分をそんな風に怒る少年の姿は初めてで、泣き腫らした瞳で弱弱しく顔を上げ、だって、だって、と声を漏らす。
「だって…うぐっ…だって、あ、あた、しのせい、だかっ…だから…だから…だからあっ、あたし…あたしが…っ…て…!」
少女が何を言いたいのか、少年には分からない。ただ、ぐずっている事だけは分かった。イライラしていた。少年は初めて、本気でこの少女が嫌いになりかけていた。
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