パステル

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「もうかえるからなっ! おまえなんてしらないからな!」  踵を返す少年と、絶望的な表情の少女。 「ま、まって…まって…! ほ、ほんとに、あし、いたいの…! つかれたの…もう、むり…おいて、お、おいてかないでぇ…!」 「いっつもいばってるくせに! な、なんでもできるとか、えらそうにしてるのに、こんなときだけ! ばっかじゃねえの!」  少年は歩き出す。容赦なく。少女を置いて。  ほとんど街灯のない道。少年の姿は暗闇に消える。  しばらく唖然として少年の背中に手を伸ばしていた少女が、やっと、自分が置いて行かれたと気付いて涙を溢れさせる。  何かが少女の中で切れた。  少女は泣いた――なんだか、色んな事に後悔しながら。    本当に疲れて、大きな声を出せないまま、擦れた声で。  泣いて、泣いて、泣いて――  ――気付いたら、いつの間にか、少年が傍に立っていた。 「………ん」  少年はただそれだけ、他に何も言わなかった。  ただ、自分に気付いた少女に、かがんで背中を向けた。 「…っく…うん」  少女もまた、他には何も言わなかった。  驚いたような表情で、しかし少年の首に手を回した。  こんな状況は二人には初めてだったのだけど、少女を背負う事は、少年には初めてではなかった。  だから二人とも、そう淀みも無く。  疲れ切った足で、小さな、しかし二人分の重さを踏みしめる。 「…どっち?」  少年は聞く。 「…わかんない」  少女はそう答えた。今日初めての「わからない」だった。 「じゃあ、こっちでいいや」  少年は怒らなかった。四つ角の道、本当に適当に選んだ道を少年は歩き出した。  心細そうに、少女は少年の首に回した腕に力を込めた。  ――帰り道なんて、分からなかった。
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