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アブラゼミの鳴き声と、鳴らない窓際の風鈴。揺れないレースのカーテン。
一つの部屋に少年と少女。向かい合わせで鉛筆を走らせる。
と、忙しなく動く二本の鉛筆の片方が宙を舞った。
鉛筆がからんと音を立てるのと、少女の体がどさりと音を立てたのがほぼ同時。ダイナミックな宿題放棄。
「…つかれた…もうヤダ…」
少女の情けない声が聞こえる。少年は呆れた表情を浮かべる。
「おまえ、勉強とくいなはずだろ」
「とくいなのとつかれたのはちがうし」
だらーん、とした様子で少女は大の字になる。少年はため息を吐きつつも手は止めない。
「一日でぜんぶ終わらすんじゃなかったのかよ、夏休みの宿題。やる気ないんだったらまき込まないでほしかった…」
夏休み初日の開放感をぶち壊すように少女が運びこんできた宿題の山を見やり、少年はため息しか出ない。
「やるよ、やるけどさ…つかれたの」
「いいけど。だいたいなんでおれのとこに持ってくるんだよ。一人でやった方がぜったい早いだろ、おまえのばあい」
少しだけ、沈黙。考えるような間。
「…ほら、わかんないとことか、教えあったり?」
「おまえにわからない問題なんてクラスのだれにもわからねえよ」
少女は学年トップの成績の持ち主だった。
「んっと…じゃあ、じかんちょうせい? あんたのほうがおそいし」
「かえれよ」
「やだもん」
言いながら、少女は体を起こす。
放り投げた鉛筆を掴んで、再び宿題帳へと向き直る。走る鉛筆の速度は少年よりもずっと速く、つっかえる事もない。
「あのさ」
少女が呟くように言う。
「あしたから、何してあそぼっか」
明日から二人で遊ぶ事は、いつものように、既に決まっているかのような調子で。
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