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月明かりだけが差し込む部屋だった。
ちょっとだけ大人になった今は、この部屋に来るのは久しぶりだな、なんて事を少年は思う。
光の届かない部屋の隅で、少女は蹲っていた。
膝を抱えて、顔を隠すように。
自分の部屋に入ってきた少年を見ようともしない。
泣いているんだ――嗚咽が聞こえたわけでもなかったけれど、少年にはそれが分かった。いや、きっと誰にだって分かったろう。空気が湿っていた。
「…おばさんが、さ」
少年は、そんな言葉を選んでいた。
「お前が帰ってくるなり部屋に閉じこもって、だから心配してて…何かあったのかって、俺に聞いてきてさ…その、なんだ」
ふう、と一息。少女は何も言わない。身じろぎさえしない。
「何か、あったのか?」
後ろ手に、少年はそっと部屋のドアを閉めた。そうした方がいいような気がした。
辛抱強く言葉を待つ。苦痛なんかじゃなかった。
少女とは少しだけ距離を開けて、部屋の床に座る。それ以上は何も聞かなかった。
淡い光さす暗闇の中、震える声が漏れた。
「……そんなんじゃ、ないもん…」
相変わらず顔は膝に隠したまま、くぐもった少女の声が聞こえる。
「あたし…調子に乗ってなんか、ないもん。偉そうになんて、してないもん」
少女の体が揺れる。感情と一緒に。
「お高くとまってなんかないもん! 日照ってなんかない! 馬鹿になんてしてない! 理想像なんてない! どうすればいいかなんて言われても分かんない! 溜まってなんてない! 雌豚なんかじゃない! ただ――!!」
膝を抱えた両手が、今度は頭を抱える。耳を塞ぐように。
「ただ…ただ…好きな人が、いるだけだもん…!!」
ああ、と少年は察する。
こんな事は初めてなんだけれど、しかし、こんな話は初めてではなかった。
誰かに告白されたのだ――よくある話だった。少女にとって。
断ったのだ――いつもどおりに。
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