パステル

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「もうやだ…つかれたよ…」  何に、疲れたのだろうか。  人気があってモテて、少女にはいつもの話なのに、どうしてこうなったのだろう。  そんなに、酷い事を言われたのだろうか――そんな事を思いながら部屋を見渡して、少年はそれに気付いた。 「……なあ、誰に告られたんだ?」  長い沈黙。 「……誰だ?」  少年の言葉が、答えを求めていると気付いた。少女は長い躊躇いの後に、その人物の名前を呟く。  同学年の人気者、バスケ部のイケメン。名のあるプレイボーイ。  そういった事に特段関心の無い少年にとっても知らない名前ではない。 「あいつに、何された?」  少年の声が震えている事に、少女は気付く。  はっと顔を上げれば、ベッドの上に脱ぎ散らかした制服とブラウス。それをじっと見下ろしている少年の姿。  少女は弾かれたように、それらを抱え込む。ボタンが解れ弾け飛び、布が大きくよれたブラウス。 「ち、ちがっ、な、何も、何もされてない! ほ、ほんとだよ!?」  表情が消えた少年の顔に、少女は息を呑む。  初めて見る、恐ろしい表情。 「ほ、ほんとに、何も…! ちがうの! ら、らんぼうされそうになったけど、なったけど! 周りのひとが止めてくれて! だから…!」 「…そうか」  表情は変えずに、少年は踵を返す。 「言い忘れてたけど、俺、あいつ前から嫌いなんだよな」  そんな言葉を残した。      …………  停学1週間。それが少年の罪状だった。  ほとんど療養期間に充てられそうだった。  顔を随分と腫らした顔面ガーゼだらけの少年が、いつも通りの声色で唇を尖らせた。 「だってあいつら卑怯だぜ。タイマンだっつたのに5人がかりできやがって」  もっとも、件のプレイボーイも似たような顔になっているらしいが。  ばか、とは心の中で何度も繰り返したけれど、結局は何も言えていない少女が、最近では変わらず無言のまま少年の部屋に居座る。いつも通りに。  あのさ、と少年は口を開く。
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