8年目+1カ月+3週間

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…… 「お疲れ様です!お先に失礼します」 いつもの言葉でオフィスを出る。 待ち合わせ場所は1F奥の自販機横で、 そこへ向かうと既に治人はいた。 「ごめんね、遅くなって」 「いや、最近、総務がうるさくてさ。 そのせいでノー残業デーには早く帰れと 部長が騒ぐんだ」 ぎこちない会話。 そして、ぎこちない距離。 まるで磁石みたいだね、私たち。 付き合っていたときはSとNでくっつき。 別れると、SとSで一定の距離を保つの。 「行こう。由布の好きな店、予約したよ」 「…ん」 たぶんその店は会社近くの居酒屋。 値段は少し高めだが、 漁港から毎朝直送される食材が新鮮で、 とても美味しいのだ。 ビル内のエントランスをゆっくり歩く。 全面ガラス張りなので、 怪しくなってきた天気を心配していると、 足元がふらつき、転びそうになった。 「由布っ!」 「え、きゃ」 驚いて顔を上げる。 気づいたときにはもう、 治人が私を真横から抱きかかえていて。 「相変わらず、危なっかしいなあ」 「ごめん。自分でもビックリした」 照れながら体勢を立て直すが、 治人の手は、私の腕を掴んだままだ。 「ハイヒールなんか履いてるからだよ」 「だってコレ、足が綺麗に見えるから」
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