8年目+1カ月+3週間

5/10

225人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「お前はこんな格好、しないと思ってた」 「…あの、もう手を離してくれていいよ」 自社ビルを出てすぐの場所。 こんなところで元カレと密着していたら、 誰に何を言われるか分からない。 そう思い必死で距離を取ろうとするのに、 スッと腕から離れたその手は、 なぜか私の指に絡められた。 い、意味が分からない。 この人はいったい、何をしたいんだろう。 ひたすらその横顔を見つめていると、 誰かが前方から近づいてくる。 「由布ちゃん?」 「え、あ、はい?!」 それは爽やか笑顔のチカさんで。 予想外の展開に、慌てて治人の手を離す。 「ゴメン、ずっと連絡しなくて。 これから食事がてら、説明させてよ」 たぶんこの人の店は、本日定休日で。 電話連絡もせずに、いきなり会社の前で 待ち伏せするなんて、余程の理由だろう。 「…えっと由布、誰かな?」 治人の問いに、チカさんは平然と答える。 「彼氏ですけど。貴方は?」 「元カレですけど。え、この前の男は?」 慌てて私は弁解する。 治人にではなく、チカさんに。 「あの、この前、 待ち合わせにチカさん来なくて。 たまたまそこにいた涼介さんが、 彼氏のフリをしてくれたんです」 「…ああ、そういうことか」 明らかにホッとした様子のチカさん。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

225人が本棚に入れています
本棚に追加