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几帳面そうなウエイターが困っている。
当たり前だが、
この洒落たイタリアンレストランで、
私たちは注目の的となっているようだ。
「何度も言うよ。
もう瑞姫のことは愛していない。
これ以上、一緒にいることは無理なんだ」
うわ~ん、と大声で泣き出し、
元カノは最後の一撃を、
チカさんの隣りの椅子に向けて放った。
床に打ち付けられ、椅子が壊れる。
それを見ても動じず、彼女は叫んだ。
「あんたなんか、大嫌い!
分かったわ、別れてやるから安心して!」
「ごめん瑞姫。本当にこれでサヨナラだ」
強気な言葉とは裏腹に、
その白い頬には涙が大量に流れていたが、
それを拭きもせず、元カノは去って行く。
後に残されたチカさんと私は、
事態収拾に尽力し、食事を摂れたのは
それから2時間後のことだった。
「ごめん、本当にごめんね由布ちゃん」
「もうイイですってば。
チカさん、今日で一生分の『ごめん』を
使い切るつもりですか?
ところで彼女、チカさんが好きなのに、
なぜフランスに行ったんでしょうか?」
「俺の愛情を試したかったんだってさ。
ったく、面倒臭い女だよ」
複雑な気分だった。
彼女は、とてもチカさんを愛していて。
なのに私なんかに奪われたのだ。
こんな、なんとなく付き合っている私に。
…湧き上がる罪悪感は、消えなかった。
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