8年前

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俯いたまま話すのも感じ悪いかなと思い、 長い髪を耳に掛け、顔を上げた。 途端に、彼が笑う。 「稲井田さんだろ?1組の。 俺、知らないと思うけど8組の大木」 「ど…して、私の名前」 栞も挟まずに文庫本を閉じそうになり、 そこに彼が人差し指を入れる。 「読んだとこ、分からなくなるよ?」 「う、ありがとう」 これが治人との、初めての出会い。 彼は言った。 ずっとずっとキミを見ていたんだと。 連休で見れなくなるから、辛いと。 どこに行ったら、会えるのかなと。 突然のことに驚いて。 それが全然イヤじゃないのにも驚いて。 こんなバリバリにガードを固める私に、 平気で話し掛けて来て、 しかも『会いたい』だなんて。 罰ゲームかな、なんて疑ったけど、 目を見ると、そんな人でもなさそうで。 たったそれだけの会話で、 また会ってもいいな、と思った。 ううん、また会いたいな、と思った。 たぶん、一目惚れだったのかも。 図書館に通うと伝えると、時間調整し、 毎日一緒に過ごしてくれて。 所属するサッカー部のマネージャーに なってと頼まれ、勇気を出して挑戦し、 大声で応援したり、一緒に走ったり。 毎日毎日、驚きの連続だった。 自分がどんどん引き出されていく。
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