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「ごめん、由布。
こうでもしないと、男性スタッフたちが
お前を狙ってるからさ」
「え、ああ、うんっ」
ち、近いってば。
そんな顔をくっつけなくても聞こえるし。
「大木さんと稲井田さん、怪しいなあ。
もしかしてデキてるとか?」
少しチャラそうな茶髪の男性スタッフが、
大声で囃し立てる。
それを否定するでもなく、治人が答えた。
「いや、お恥ずかしい。
実は8年ほど付き合ってたんですけどね、
一度別れてしまって。
いま、復縁を迫ってるところなんですよ。
このまま一気に押し切りたいので、
皆さん温かく見守っててください」
ヒュウヒュウ!頑張れよ~!!
…と無責任に外野は騒いでいる。
「治人、こういうの困るよ。
私、もうやり直す気は無いのに」
うん、ごめん。
そう言って治人は手を握る。
長い間、手なんか繋いでなかったね。
いつからお互いに触れなくなったっけ。
ベッドでも、背中を向けて寝ていたし。
キスもずっとしてなくて。
「初めて手を繋いだ日、覚えてるか?」
「ああ、うん。相合傘したときだよね」
学校帰りに突然、雨が降り、
私の折り畳み傘に2人で入って。
私が腕を伸ばして傘を持っていたら、
笑いながら治人がそれを持とうとして。
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