数年ぶり

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 [こんな話聞きたくないとは思うけど聞いてください。あいつ結局仕事辞めて、家賃も滞納し続けて電気も水道も止められて、家の近くで倒れてる所を近所の人が見つけて通報したみたいで今入院してます。体重も40キロしかなくて極度の栄養不足で視界も二重に見えるんだって。一銭も持ってなくて本当に何も食べてなかったみたいです。]    仕事を終えて帰路に着いて、夕飯でも作ろうかと思った矢先にこんなメールが母親から来たもんだから、食欲なんてなくなるわけで。 あの日からずっと避けてきた、もう二度と関わりたくなかった あいつ の話はこの瞬間に昔の記憶と共に脳裏に蘇ってしまった。 米を炊く気にもならずソファーに腰掛けて一息つく。    (勘弁してくれよ……) これが本音である。白い天井を見つめて一瞬自分の中の時を止める。 返信することなんてない。無視することもできる。むしろ何度か無視をしてきたこともあった。文を打つ度に怒りとも悲しみとも取れる複雑な気持ちが、いつも胸の奥をグチャグチャ掻き混ぜるからである。  なんで あいつ の息子なんだろうか。なんで あいつ が父親なんだろうか。 何回こんな言葉が頭を駆け巡っただろうか。もう何年同じことを思い続けて。まだ自分たちを苦しめるのか。 怒りだけが込み上げるのならまだ良かった。しかしなぜだろうか。今回のメールはそんな あいつ が生きることさえできない状態まで落ちたことに今まで感じて来なかった気持ちが生まれた。  (なんでそこまで……) 初めてかもしれない。悲しいという感情が生まれたのは。 あいつ に対してそんな感情があるなんて思わなかった。その時に思った。  (結局俺は息子なんだ……)
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