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けたたましい目覚しの音で、目を覚ました。何か、懐かしい夢を見ていたような気がする。
「……あさ、か」
上体を起こすと、大きく背筋を伸ばした。カーテンの隙間から朝の眩い光が差し込んでいる。
ちりん、ちりん、と鈴の音に視線をうつせば、黒い猫が布団の上で丸くなっていた。
「ツユ、おはよう」
「にゃー」
挨拶を返すように、黒い猫……ツユはひとつ鳴いた。薄く開いた眼からは、ラピスラズリのように綺麗な蒼色がみえる。
「にゃー」
鳴きながら大きく振るツユの尻尾が、当たっているモノ……目覚し時計が目に入って思わず大きな声をあげてしまう。
「って、もうこんな時間!? 今日、練習試合なのに」
「にゃ!?」
ベッドから勢いよく飛び出すと、その拍子に布団が、ツユを覆い隠した。布団の中でモゾモゾと動きまわるツユを横目に、崎谷夕実は、大急ぎで制服を着始めた。
「いってきます」
玄関を飛び出し、学校へと走る。夕実の後ろを、ツユが軽やかな足取りでついてくる。ツユは、学校の近くを遊び場にしているのか、学校に着く頃にはいつの間にか、いなくなっている。そして、タイミングを計ったかのように、夕実が帰る頃には校門前で待っているのだ。
部室についた夕実は、まずは着替え始めた。最初は、着るのに手間取った袴だが、今では慣れたもので、あまり時間をかけずに着替えられるようになった。いい加減、早起きにも慣れてほしいものだと深くため息をついた。
着替え終わった夕実は、自分の矢と弓を持ち、道場の入り口で足を止める。
「よろしくお願いします」
奥に飾られている神棚に向かって一礼すると、道場へ足を踏み入れた。
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