2501人が本棚に入れています
本棚に追加
/367ページ
長い間、ずっと独りだった。そう思い込んでいた。
だから孤独には慣れていても、幸せには慣れていない。
思いがけず得た幸せを失いたくない思いが強過ぎて、怖くなってしまう。
いくら考えてもしようのない先のことを考えて、怯えてしまう。
この先、いつか矢野がおれから離れていく日がきたら――。
そのときだった。
「亘?」
リビングに入ってきた矢野に声をかけられた。
眼鏡はしていなかった。
「どうした、そんな暗がりに座って」
「……目が、覚めちゃったから」
「エアコンつけてよかったのに」
矢野はエアコンをつけたあと、電動カーテンを開けながら、リビングにおれを呼んだ。
「こっち来て」
そばに行くと、矢野が窓の外に楽しそうな目を向けながら言った。
「見て。すげー朝焼け!」
窓の外に広がる空。
そのあまりの美しさに、瞬きを忘れた。
矢野に促されて、ベランダに出た。
3月になってまもない早春。
明け方の外気はまだ冷たかった。
けれど、その冷たさすら忘れてしまうほど、明けていく空はきれいだった。
淡い薔薇色と水色、そしてオレンジの3色の入り交じる色彩。
それが大空いっぱいにどこまでも広がっている。
こんな朝焼けを見たのは、生まれて初めてだった。
最初のコメントを投稿しよう!