ふたりの果て

40/43
2501人が本棚に入れています
本棚に追加
/367ページ
長い間、ずっと独りだった。そう思い込んでいた。 だから孤独には慣れていても、幸せには慣れていない。 思いがけず得た幸せを失いたくない思いが強過ぎて、怖くなってしまう。 いくら考えてもしようのない先のことを考えて、怯えてしまう。 この先、いつか矢野がおれから離れていく日がきたら――。 そのときだった。 「亘?」 リビングに入ってきた矢野に声をかけられた。 眼鏡はしていなかった。 「どうした、そんな暗がりに座って」 「……目が、覚めちゃったから」 「エアコンつけてよかったのに」 矢野はエアコンをつけたあと、電動カーテンを開けながら、リビングにおれを呼んだ。 「こっち来て」 そばに行くと、矢野が窓の外に楽しそうな目を向けながら言った。 「見て。すげー朝焼け!」 窓の外に広がる空。 そのあまりの美しさに、瞬きを忘れた。 矢野に促されて、ベランダに出た。 3月になってまもない早春。 明け方の外気はまだ冷たかった。 けれど、その冷たさすら忘れてしまうほど、明けていく空はきれいだった。 淡い薔薇色と水色、そしてオレンジの3色の入り交じる色彩。 それが大空いっぱいにどこまでも広がっている。 こんな朝焼けを見たのは、生まれて初めてだった。
/367ページ

最初のコメントを投稿しよう!