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校舎を出たところで、不自然にならないように腕を離した。サークル会館に向かう由良と、ここで別れなければならない。柚木が口を開きかけたとき、その声はした。
「由良君!」
そちらを見遣れば、目鼻立ちのはっきりした美女が手を振っている。Tシャツを押し上げる二つの小山が揺れ、ジーンズに包まれた脚はすらりと長い。
彼女は真っ直ぐ近付いて来て、由良の隣に並んだ。
「よかった、探していたのよ。今から、ちょっとだけ時間ある? 君に話があるって子がいるの」
その声は潜められていたが、由良を挟んで横にいる柚木には丸聞こえだ。最初から眼中にないという態度だったので、気にも留めていないのだろう。
ここは上手にフェードアウトした方が無難かな、と半歩後退ったとき、強い力で腕を掴まれた。
「何処に行く」
がっちりと腕を掴んで問い質す由良は、不機嫌そうに見える。その迫力に気圧され、つい本音が出た。
「ええと……お邪魔かなと思って」
ますます不機嫌そうに、由良の眉間に皺が寄る。しまったと思うが、もう遅い。
「俺は、お前といるんだぞ? むしろ、邪魔しているのは、向こうだ」
「ちょ……トモちゃん!」
聞こえよがしに言われ、彼女がいい気分になるわけがない。慌てる柚木に対し、由良は平然としている。
「そういうわけで、俺は行きません。話があるなら、人を遣って呼び出さずに自分が来いと伝えてください」
見る見るうちに顔色を変える彼女は、自分が誘って断られるとは、思ってもいなかったのだろう。美女の顔が般若に変わる前に、柚木はことさら明るい声を上げた。
「せっかくの美人さんのお誘いじゃない。行ってあげれば?」
意表を突かれたらしく、反射にも近い速度で振り返った由良に、柚木はにっこり笑ってみせる。由良の向こうに見える彼女も、気を取り直したように媚びた笑みを浮かべる。
「お友達も、ああ言ってくれていることだし。ね?」
彼女に触れられた腕を上げ、由良は眼鏡を押し上げた。
何気ない仕種だったが、彼女の手を振り払う意図があったことは明白だ。顔には出さないが由良の機嫌は、やはり良くはないらしい。
緊張感を孕んだ空気に、だんだん柚木は、いたたまれなくなる。
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