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「うんっ」
なつみの元気な声に、しげは微笑んだ。
通り沿いの自動販売機を一つ一つ調べると、十円玉がよく落ちていた。
十台も調べた頃だろうか、二人が次の場所へと移動してると、向こうから同じ薄汚れた格好をした男が一人、近づいてきた。
二人はきゅっと手を握りしめ、うつむき加減に素通りしようとした。
だが。
「よお、坊っちゃんたち。景気はどうだい?」
かさついたダミ声は、酒の飲みすぎか何かだろう。
しげは後ろに隠れるなつみを庇うようにして、男の正面に立った。
「まあまあだよ。お兄さんはどう?」
「相変わらずしけてるぜぇ。酒も呑めやしねぇ」
「そっか。明日は大雪だって。お兄さんも早いとこヤサに戻った方がいいよ。今夜は冷えるから」
「ふーん。そうかい」
男はそれでも歩こうとはしなかった。
しげはなつみの手をぎゅっと握り、男の横を「じゃあね」と言って通ろうとした。
「まあ、待てよ。坊っちゃん」
ぎくりとしげの動きが止まる。
「そのふところに隠してるのはなんだぁ?」
「っ! やめろっ」
男はしげの上着を掴みあげ、その下に隠した袋を取り上げた。
「なぁにが、まあまあだよ。お前らもしけてんじゃねぇか」
「返せよっ」
しげはなつみの手を離すと、男が頭の上に掲げた袋を取り返そうと、男の体を何度も叩く。
なつみは両手を口許へやり、震えてその様子を見ていた。
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