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「返せ。返せっ」
細い腕での攻撃など男にとっては屁でもなかった。
だがそれも鬱陶しくなり、思いきりしげの腹をその腕で払いのけた。
「しげちゃんっ!」
とさっと倒れ込んだしげの元へ、なつみが青い顔で駆け寄る。
「こんなもん、また集めれるだろ? けちけちすんなよ。じゃあな、ありがとよ」
ひらひらと手を降りその場から離れる男の後ろ姿を睨み付けながら、しげはゆっくりと立ち上がった。
「しげちゃん、大丈夫?」
しげの靴の片方が飛び、手のひらと足のかかとが擦りむけて血が滲む。
しげは黙って離れた場所にある靴を拾い上げ、それを履いた。
ぎゅっと怪我をした手を握り締め、しげはうつむく。
「……しげちゃん」
しげは泣いていた。ぽろ、ぽろ、と涙が落ちて、路に跡を残す。
「ごめん、なつみ。……ごめん……」
「いいよぉ、しげちゃん……」
悔し涙を流すしげを見て、なつみもまた涙声になる。
「ごめん……」
「しげちゃんのせいじゃないもん……」
二人は肩を寄せあい、路上に立ち尽くしていた。
誰もがそんな二人を避けながら歩いて行く。
あたかもそこに二人がいないかのように。
「しげちゃん、お金があるよ。これでコロッケ買おう? 半分こすれば二人であったまれるよ。……ね?」
「……うん」
「食べたらおうち帰ろうよ。明日はきっと配給がある。またあったかいもの食べれるよ、きっと」
「うん、……うん、なつみ」
「行こう、しげちゃん」
なつみが小さな手でしげの傷ついた手をとる。
なつみは笑いながら、しげを引っ張った。
それにつられ、しげもまた涙で濡れた頬を上げたのだった。
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