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おじいさんと外を歩くのは滅多に無かった。
出歩かず常に古書店の中にいたのだ。
嬉しさの余りおじいさんの耳を甘噛みした。
「ほほほ、嬉しいかい。明日は店の開店時間を遅らせてゆっくり散歩しようかね。」
暖かな夕日の木漏れ日はおじいさんの顔を照らした。
やっぱりこの顔が大好きなんだ。
優しいおじいさんの笑顔が。
翌日の朝、いつも通り朝5時に誰もいない街を散歩していた。
いつもと違うのは隣におじいさんがいること。
同じ散歩でもこんなに気分が違うものなんだな。
「懐かしいのぉ。昔おばあさんと一緒にこんな風に散歩したものじゃよ。」
おじいさんは朝の冷たい微風に吹かれながら思い出に耽っていた。
「あの古書店はな、おばあさんと2人で始めたんじゃよ。わしらは同じ一冊の本が大好きでな、2人でずっと語り合ったものじゃ。その物語の主人公とヒロインを演じてセリフを読んだこともあったのぉ。」
おじいさんはあの本を読んでる時と同じ幸せそうな顔をしていた。
おじいさんが繰り返し読んでいた本は、おばあさんとの思い出の本だったんだ。
「一冊の本にはな、その物語の主人公の物語の他に、読んだ人の思いが沢山詰まっているんじゃよ。」
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