第一章 神岡神斗

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 放課後。5月も半ばを過ぎた、真夏のように暑いグラウンドで、サッカー部が練習をしている。パスが合わず、追うのを諦めた健太郎が、パスを出した翔平を怒鳴りつける。  「馬鹿!翔平!こっちに出せよ!」  海斗が遮るように割って入り、優しさを湛えた笑顔で  「健太郎、パスが出たら最後まで追おう」  「今のは追いつけませんよ」  「追いつけるかどうかは問題じゃない。サッカーやるのはロボットじゃなくて人なんだから感情の要素は大きくプレイに関わってくる。パスを出したら、絶対最後まで追いかけてくれるっていう信頼関係がないと、翔平は次にパスを出す時ためらう。そんなギクシャクした関係じゃパスワークなんて構築できない。最後まで走ろう」  健太郎はいまいち腑に落ちない表情を浮かべた。しかしその後、海斗のプレイを注意深く観ることで、彼の言わんとしていることが理解できた。海斗は攻守に献身的に走り回り、ボールが来なくても囮になることを厭わず、間に合わなくても諦めずに最後まで走り切った。誰よりもボールを奪い、誰よりもうまく、誰よりもゴールを決めた梶岡海斗が。
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