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おまえは誰にも顔を見られていない。
騎士として働き続け、常に鎧をまとっていた。
おまえの顔を知るものなど宮中にもごくわずか。
農民として生きたなら。
(……そうか)
簡単なことだ。
火傷でただれた四肢をひきずり、村の戸を叩いてこう言うのだ。
(……一晩泊めていただけませんか)
そう。
そうして村に泊めてもらい、村人達の好意を得、行き場のないことを伝え、そうしてそこで生きるのだ。
誰もおまえの顔を知らない。
城には近づかず、王女のことも忘れ、慎ましい静かな人生を送る。
それに何か問題があるか。
(……だが)
だがおまえにはそれができない。
生まれてこの方妥協を知らぬおまえには。
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