10人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう……。でも天使が手を下したかもしれないのね」
「それは否定できないが……」
私が暗い焔を眼に灯していると、凱が慌てて言葉を濁した。
「とにかく響子ちゃんの命が優先だ。あと1時間を逃げ切ればゲーム終了さ」
「分かったわ……」
眼を伏せながら答えたが、本当は心で叫んでいた。
(人の命を何だと思っているの! 校舎から飛び降りたあの子も天使の手に掛かったのなら、それを私が確かめてやる!)
復讐に燃える眼を走らせて、凱が車に乗り込む隙をついた。
反対車線に飛び出すと、走ってきたタンクローリーの前に立ち塞がる。
「危ないじゃないかッ、どうしたんだい?」
急ブレーキを掛けて止まった運転手に、私は泣くような声で訴える。
「すみません。お願いですから乗せてください!」
「痴話喧嘩だね。ほら、彼が追い駆けて来ないうちに乗りな」
助手席に乗り込む後方で、
「あっ、ちょっと待て!」
凱の慌てる声が聞こえた。だがもう遅いわ。
「災難だったね」
「でも助かりました」
前を向いて運転する中年の男に頭を下げる。
「困ったときはお互い様ですよ」
「あの、行き先ですが──」
「あなたの勤めていた中学校ですね」
「な、なぜそれを……?」
「それは、あなたがこの車で中学校に激突するからですよ」
最初のコメントを投稿しよう!