自殺ブックメーカー

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 こちらを向いた男の顔は、あの大天使バラキエルに変貌していた。  迂闊だった。わざわざバラキエルが姿を見せて、教え子の自殺を仄めかせたのは── 「罠だったのね!?」 「教え子の自殺を苦に自暴自棄になり、皆を巻き込んで自殺するとは、誠に悲惨の一言に尽きる」  バラキエルがうすく笑う向こうで、1台の車が並走しているのが見えた。 「天使が偽装工作してるんじゃねえよ!」  追いかけて来た凱が叫んだ。 「貴様ッ!?」 「余所見運転は事故のもとだぜ」  ハッとして視線を戻すと、前方からドローンが突っ込んでくるのが見えた。  ズガッシャ──!!  砕け散る機体。だが大重量のタンクローリーは止まらなかった。 「滅せよッ!」  大天使が疾呼すると稲妻が走り、並走していた凱の車を直撃した。爆発大破するのが遠くに見える。 「如何にアンダードッグといえど、あれでは生きてはいまい」 「非道いッ。そうやって私の教え子も殺したのね?」  殴り掛かろうとするが、振られた腕に弾き返される。 「いいや。あの子は我々の誘惑に、最後の最後で踏み止まった。屋上から転落したのは足を滑らせたからだ」 「そんな……」  何てことなの。私が馬鹿だった。  失意のまま抵抗せずに、車に揺られながら時の経過を待った。
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