自殺ブックメーカー

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 私は若い男が操縦する小型ヘリコプターに乗っていることに気づいた。 (……助かったの……)  溢れ出す安堵感と、焦がすような屈辱感。 「助けた早々に何だが、死んでくれ!」  男が握る拳銃の銃口が、虚をつかれた私の額に向けられた。 (えっ……死!?)  奈落への急転直下な展開。 「あっ…」  口を開くよりも早く、鼓膜を破るような銃声が轟く。  ズッオゥン──!! 「ギッシャアアァァ──!!」  絶叫のような悲鳴。  私の悲鳴じゃない。背後で蠢く異様な気配に振り向いた。  額を打ち抜かれた羽根持つ異形──それはまさしく天使の姿だった。  それが地上に落下しながら燃え上がった。 「俺を出し抜こうなんて10年早いぜ」  男が冷たい声で、燃え舞う羽毛と共に落ちていく火に包まれた天使を見た。 「あれは……」自分でも信じられずに言葉が詰まる。 「思った通りの天使さ、音羽響子(おとわきょうこ)ちゃん」  若いが精悍な面構えの男が答えた。 「どうして私の名前を知ってるの……君は?」 「俺は如月 凱(きさらぎ がい)。別名アンダードッグさ」長い睫毛の眼でウインクした。 「アンダードッグ……?」 「ギャンブルで使われる専門用語だ」 「ギャンブルって何? それとあの天使はいったい何なのよ?」
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