自殺ブックメーカー

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 ここまでいくと言葉もない。世界を股に掛ける17歳。それがなぜ私の自殺を食い止めたのかしら。  歯痒い思いで顔をしかめていると、突然に防災行政無線システムのスピーカーから放送が流れはじめる。 『こちらはスイシードブックメーカーです。音羽響子の自殺時間まで1時間を切りました。 間もなくベット締切時間です』 「ちょっと……何で私の名前が……。それにどうしてここにいるって分かったの!?」 「おいおい、東京都だけでも監視カメラがいくつ設置されていると思っているんだよ。 俺たちはそのカメラを通して配信されているんだぜ」 「配信って……見世物にされているの?」  声を震わせながら訊くと、凱が乾いた声で説明しはじめる。 「スイシードブックメーカー、通称が自殺ブッキー。対象者の自殺を救えるか、それとも阻まれて自殺するか。それをギャンブルとして運営する組織だ」 「自殺を賭けの対象にするって……」マトモじゃないわ。 「英国の研究者によると、100年以内に金持ちが人間狩りゲームを楽しむビジネスが誕生すると示唆した。 だがそれは既に、一般社会に公開されない場所で開始されているのさ」 「自殺を予知したって言ってたわよね。それも関係あるの?」  半信半疑で訊ねると、凱が嘆息しながらうなずく。 「自殺予知システム、通称シス(Suicide Intimation System )。政府がSNSや監視カメラ、医療記録や血液検査という膨大なビッグデータを人工知能が予測アルゴリズムで分析した結果、偶然にも自殺予知システムが誕生したのさ」
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