自殺ブックメーカー

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「そんなこと現実なの……それでどうして天使が?」 「日本の自殺者総数、年間でおよそ11万人。自殺者は天国に行けないというが、そんな膨大な数では地獄も満杯になるだろうさ。 だから天使が上前をはねているってワケだ」 「上前って何を?」 「今まではもっとも金になるのは武器だった」凱が銃を指す。「だがこれからは魂が価値をもつ時代になる」 「天使がなぜ自殺者の魂を欲するの?」 「さあね。今までは問答無用で撃ってきたからな。おそらく、地獄の悪魔にでも下取ってもらっているのかもな」  皮肉たっぷりな表情で嘲笑う。 「……自殺者の命をギャンブルにするなんて、そのブックメーカーの元締めは悪魔なの?」 「いいや、残念ながら元締めは人間だ。悪魔はどっちかつーと味方だな。あいつら金を握らせておけば裏切らないからな。 それに比べて厄介なのは天使さ」  凱が大仰に肩をすくめると、晴天の青空に稲妻が走り、激しい音と共に私たちの前に落雷した。  焦臭いアスファルトの上に、威容を誇る天使が立っていた。 「余は大天使、稲妻のバラキエル」 「これはこれは、首領天使ではありませんか。敵の首魁が登場とは、誠に痛み入ります」  恭しく頭を下げる凱を、バラキエルが金色の眼で睥睨する。 「天使の宿敵、如月凱よ。無駄な足掻きは止めて、即刻その娘の魂を渡せ」
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