1.大家ヘイハチ

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 チャイムがなり、玄関を開けると猫がいた。 「にゃあ」  と僕が言うと 「ちょっと今それにつきあってる暇はないんです」  と言われた。 「急ぎか?」  と聞くと「にゃあ」 「まあ、あがれよ」  僕は猫を家に上げた。  季節は夏。戸を開け放った日本家屋は意外なほど涼しい。  裏が竹林になっているのもこの涼しさの要因かもしれない。 「急ぎの用と言うのは家賃のことなんです」  と猫は言った。 「家賃か」  と僕はとぼける。 「そんなものもあったな」 「あったな、じゃありません。如月さん、一体何カ月滞納するつもりですか?」  家賃の滞納は六ヶ月目。目の前この猫はヘイハチといって、僕が住んでる家の持ち主、つまり大家である。 「急ぎと言ったな。金がいるのか?」 「そうです」 「まずはそっちのほうを聞こうじゃないか。力になれるかもしれん」  僕は立ちあがり、ぬるいお茶を入れた。  お茶菓子として鰹節を出すとヘイハチは態度を和らげた。
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