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チャトラは何が起こったか分からず自分の右手に残ったハイヒールのヒール部分を茫然と見つめた。
端的に何が起こったかといえば、そう、ヒールが取れたのである。
サバトラは疲れた顔に満面の笑みを浮かべると、ここぞとばかりに攻撃の手を強めた。
チャトラは残った左のハイヒールだけで何とか攻撃を防いでいるが、決着は時間の問題のようにに見える。
白猫と、相手側の二匹の猫――片方は白と黒のまだら、もう片方はキジトラである――が二匹の戦いを黙って見つめている。
「私のハイヒール……」
と大槻が言った。
戦いは三十分にも及んでおり、初め立ちあがって応援していた彼女も今は土手に腰掛けてぼんやり見つめているだけである。
そしてついに戦いの勝敗が決した。
サバトラの警棒がチャトラのあごに入り、チャトラが立ち上がれなくなったのである。
チャトラ側で唯一立っている白猫がチャトラ猫に駆け寄り、相手側は唯一のされている黒猫に肩を貸し、去って行った。
「行こうか」
と僕は大槻に言った。
大槻はしばらく立ち上がらなかった。
じっと向こう岸の猫たちを見つめていた。
僕も一度は立ちあがったものの、再び腰をおろし、夕陽の沈んでいく様子を見つめていた。
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