僕はさ

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「あら、今日も来てくれたの?」  お昼の喧騒を乗り越えた午後3時頃。僕はドレミ通りという近所の商店街に足を運んだ。通りに沿って並ぶ、たくさんの植え込みを手入れしている一人の女性、稔さんは僕の姿を見るなりそう告げた。  緑のカフェエプロンをつけ、優しい微笑みをたたえた稔さんは「今日もいつものセット?」と、ふふと小さく笑いながら僕に問う。  肯定の意味を示すため、二回ほど頭を縦に降る。ちなみに稔さんはこの植え込みの目の前にあるカフェ【ピーターハウス】の店員さん。そして僕はそこのお得意様。 「立ち話もなんだから店に入りましょう」  稔さんはお客さんを外で待たせるなんてだめよねぇ。と苦笑し、ウッドスタイルの扉を開けて僕を店内に促した。  カウンター近くのお気に入りの席につくと奥からマスターが出てくる。 「おや、また来てくれたのか。うちみたいな小さい店を気に入ってくれるのはキミぐらいだよ」  マスターが目尻のシワをキュッとさせて笑う。50は過ぎているのに、黒髪はふさふさだ。イケオジという言葉がピッタリだと思う。僕はきっとなれない。何か遺伝子が変わったりしてもその望みが叶うことはないだろう……言ってて悲しくなるな。「あなた、早くいつものセット用意しないと。お客さんなんだから」 「ああ、すぐ用意するよ」  僕はそんなに慌てなくても大丈夫なのだけれど。これを食べたらドレミ通りをフラフラしつつ、夕飯を用意するぐらいだ。そういえば昨日はなにを食べたんだっけか。 「ねぇ、新商品があるんだけど試食してかない?」  僕が緩い脳で昨日の夕飯について思い出していると、稔さんが悪戯っ子のような顔で僕に囁きかけてきた。  新商品は是非とも食べたいのでお願いします。僕は再び頭を縦に降る。 「キミならきっとそう言ってくれると思ったわ。ちょっと持ってくるわね」  なんと。稔さんにはバレていたのか僕の心が。 「……お待たせーはい。いつものと新商品 猫まんまとホットミルク」  それを見て僕は待ってましたとばかりに大きな口を開ける。  あぁ、自己紹介がまだだった。僕はこの地域に住む野良猫。つい最近八百屋の娘さんに「チロ」と名付けられたので、名前はチロです。ここのカフェのお得意様だ。よろしく。将来の夢はマスターみたいに渋い大人(猫バージョン)になることだけど、三毛猫だから無理かもしれない。
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