12606人が本棚に入れています
本棚に追加
/419ページ
「やっぱり今日はカップルが多いですね」
「そうね」
巷のカップルはバレンタインのときもこんな風に食事をするんだな。知らなかった。
今まで全然力を入れてこなかったイベントだから、寝耳に水だ。そういえば、チョコってどのタイミングで渡すのだろう。デザートの前? 後?
「どうかしました?」
眉間に皺でも寄っていたのか、樋山くんが不思議そうな顔で覗き込んでくる。
「ううん、なんでもない」
慌てて首を振ると、キョトンとしたままワインを傾けていた。
ていうか、チョコを待っていたりするのかな? どうなんだろう。何も言わないし、彼のよく心理がわからない。
そんなことをうだうだ考えているうちに、料理が次々に運ばれてきて、気がつけばデザートが目の前にあった。
「どれもおいしかったですね」
「うん、そうだね」
料理を堪能し、お腹いっぱい。やっぱりそこら辺のレストラ ンとは全然違う。
「佐和さん」
ナプキンで口を拭っていると、樋山くんが改まったように口を開いた。そしてどこに隠し持っていたのか、彼が突如小さな箱を差し出してきて、私は目を瞬かせた。
「なに? これ」
「俺から、バレンタインのプレゼントです」
「えっ? プレゼント !?」
どうして樋山くんが私に?
「そんなに驚くことですか? 男性から女性にプレゼントを贈った っていいでしょ?」
それを聞いて、ハッとした。そうだ、この男、ロンドン仕込みだった!
イギリスはチョコレートを贈る習慣の発祥の地 。そして、男性から女性に贈るのが一般的。樋山くんは去年、本場のバレンタインを体験していたんだった!
ということはつまり「一緒に過ごしましょう」の意味は、チョコをくれって言っているんじゃなかったってこと?
最初のコメントを投稿しよう!