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「佐和さんは、休暇中ってことはどこか行かれる予定なんですか?」
オフだからか。珍しくマスターが自らそんな質問をしてきた。
「あー……ううん、実家にいるだけ。でもダラダラしすぎだって親に追い出されちゃって。行くあてがなくてなんとなくここに。まぁ今は充電中って感じかな」
「充電中、ですか」
「あの時、聞こえちゃってたよね?私、樋山くんと別れたの」
「……」
「結婚するんだって、すごく良いところのお嬢さんと。私ってつくづく選ばれない女だよね。こんなことが二度も続くなんてさぁ。最後はいつも捨てられる……」
だからあの時誓ったのに。もう結婚も恋愛もしないと。
それなのにまた同じことを繰り返して。バカだ、本当。
「あ、ごめんね。昼間からこんな変な話して」
忘れて、と目の前に広がった空を眺めるマスターに慌てて謝った。
「佐和さんのことすごく好きそうに見えたのに」
するとポツリとそう言ったマスター。私はえ?と、水滴の流れるグラスを握りしめマスターを見た。
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