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「樋山さん、佐和さんにかなり惚れてましたよ」
「……違うよ、ただの暇潰しよ」
「本当にそうでしょうか?」
そう言ってマスターは、グラスの中の氷をカランと揺らした。
確かに何度か好きだって言ってくれた。それにたくさん愛情かけて抱いてくれた。
あれらが本心だったのか嘘だったのか。今となってはよくわからない。
「もういいの、終わったことだし。これで思う存分仕事に打ち込める。来期から忙しくなるの。医薬品も扱うことになったから。あー、なんだかワクワクして……」
「どうして笑っているんですか?」
「え?」
「佐和さん。本当は悲しくて仕方ないくせに」
「べ、別に私は……」
「このまま引き下がったら一生後悔すると思いますけど」
「でも、今更何を話せって……」
結婚が覆ることなんてない。
それにそんな負け試合に挑む真似、私にはできない。
「佐和さん、」
「……ん?」
「プライドの意味、はき違えないでくださいね」
マスターはそう言い残すと勘定を持って行ってしまった。
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