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俺はこの時もう完全に諦めていた。これ以上なにを仕掛けても、どんなに押しても彼女の心は手に入らないと。
だが俺がロンドンに赴任してすぐ。仕掛けていた罠が作用したかのように、ことは思わぬ方向に展開した。
佐和さんが俺を思って追ってきたのだ。
「樋山くんが好き」
しかも公衆の面前で声を詰まらせながらそう告げてきた。
心底驚いた。信じらなかった。こっそり自分の足をつねってみたりもした。そのくらい思いがけないことだった。
彼女はプライドの塊のような人だ。かなりの葛藤と覚悟をもって来てくれたのだと思う。そう思うと愛おしくて可愛くて仕方なかった。
そしてもう二度と彼女を離さない。大切にすると、涙を流す彼女を腕の中に抱きすくめながら誓った。
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