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「そのさ、樋山くんって呼ぶのやめない」
少し息の上がった彼女は、俺を上目遣いで見ながらきょとんとする。
「いつになったら名前で呼んでくれんの」
そう。彼女はいまだに俺のことを樋山くん呼ばわりなのだ。もちろん、ベッドの上でも。
「え?なに今更。別にどっちでもいいじゃない。慣れないのよ」
平然とそう言って俺の手を自然に振りほどく。そして落ちてしまった箸を拾いながら、努力はしてみるわ、と言った。相変わらずなクールな対応。
そこは、
「やだぁ、今更恥ずかしい(赤面)」
「わたる?わーたる!渉!ふふ、練習、練習(ハート)」
だろ。女子なら。
「え、なに?まだ何か用?」
「……いや、なんでもないっス。座って待ってます」
あからさまに邪魔そうにする彼女にそう言い残すと、俺はリビングのソファーに身を預けた。
まだまだだな、俺。どんまい俺。
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