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◇
「小田桐先生、ご要望のカタログをお持ちしました」
高級そうな革張りの椅子に大きく仰け反るその人に、俺は用意していたカタログを差し出した。
「樋山くんか、ありがとう」
彼はそう言って椅子を反転させると、そこに置いておいてと中央に位置するテーブルを指した。
これもまた高級そうで、恐らくイタリアのメーカーのもの。その上に乗せられた灰皿も同じブランドのものだろう。さすが准教授。この部屋にあるものはどれも一級品ばかりだ。
「一服していく?」
そんな俺の視線に気がついたのか、小田桐先生は俺を来客用のソファに促した。だが俺はいえ、と営業用の笑顔で断った。
「タバコは吸わなかったんだっけ。まぁ僕も吸わないんだけど、なんとなくオブジェとして置いているんだ。それ、どこのものかわかる?」
「イタリア製ですよね」
「さすが樋山社長の息子。目が肥えてる。本当は僕、そういうのちっとも興味ないんだよね。いまだに貧乏症が抜けないというか、その灰皿一つで米がいくつ買えるんだろう、なんて頭が勝手に換算してしまう」
おかしいだろ?と、穏やかな笑みを浮かべ近づいてくる小田桐先生。
正直、ここに来た瞬間から一刻も早く立ち去りたいと思っていた。
だがどうやらそういうわけにはいかないようで、座ったら?と言う彼に促されるまま、俺はその場に腰を下ろした。
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