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1月某日。
「はぁ~」
私、東雲佐和は部屋で雑誌の特集記事を見ながら一人項垂れていた。この時期になると毎年世間はあの話題で一色になる。2月14日のバレンタインだ。百貨店やコンビニ、雑誌。あらゆるものがそれに浸食され、私の脳を痛めつける。
正直こういうイベントは苦手だ。だって女性から男性へ愛を贈る なんてそんな恥ずかしい真似、私にできるはずがない。
驚かれるかもしれないが、今まで恋人にチョコを渡したことがないのだ。学生時代は忘れたフリをしてやり過ごしてきた。社会人になってからは、忙しいアピールで回避。今思うと、高飛車な女だと思う。
逆に義理チョコを配るのは得意中の得意。その中にこっそり新商品のパンフを
入たりして、営業を兼ね、取引先の男性社員に渡している。
だけど今年はそうはいかないだろう。私の恋人、樋山渉がどうやら楽しみにしているらしいのだ。
「バレンタインの日は一緒に過ごしましょうね、佐和さん」
なんて言うものだから、今からどうしようかと悩んでいる。しかも雑誌には、恋人に贈る なら手作りがいいなんて書いてあるし。もはやこれは私史上 もっとも難関な案件だといえる。
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