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◇
「チョコくらいでなに怖気づいてんのよ。ちゃちゃっと作って渡しちゃえばいいじゃない」
ずずっと天ぷらそばをすすりながら透子が呆れたように言う。
「そんな簡単に言わないで。だいたい私お菓子なんて作ったことないし」
「今動画とかなんでもあるでしょ」
動画かぁ……。それを見ながら必死に作る自分を想像すると、ちょっと胸やけがする。だいたいキャラじゃないでしょ。
「あんた、今キャラじゃないとか思ったでしょ」
ギクッとして、天丼に箸をつけたまま固まる。完全に見透かされている。
言い返す言葉が見つからず笑って誤魔化すと、透子はそんな私を一瞥した後、再び豪快にそばをすすった。
最近のランチはこのそば屋が定番になっている。安いし、なんといっても出てくるのが早い。営業の私にはもってこいの場所だ。
「いい加減その性格直さないと、樋山さんに愛想つかされても知らないよ」
「わかってるよ。そういえば透子はその日はどうするつもりなの? 浜岡さんと」
「私たちはこの前映画化になったアニメの聖地を巡礼する予定」
「ふ~ん、仲良くやってんのね」
「まぁね」
浜岡さんと透子は、この前うちが主催するパーティで意気投合し親しくなったのだとか。浜岡さんも透子と同じでアニメ好きで、二人で映画に行ったり、秋葉原に買い物に行ったりしているとつい最近報告された。
透子は付き合ってはいないと言うが、もうそれ付き合っているのと同じじゃんと、喉元まで出かかってはなんとか食い止めている。自分の恋愛もうまくできないのに、人の恋愛に口出す身の程知らずにはなりたくないから。
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