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ランチを終え課に戻ると、オフィスの隅の方に人だかりができていた。
「あ! 先輩! 先輩も一緒に考えてくださいよー」
私を見つけた寧々ちゃんが、相変わらずのテンションで駆け寄ってくる。
「今年のバレンタイン、どうします?」
私に雑誌を押し付け、満面の笑みで言う。そんな寧々ちゃんとは対照的に、私はここでもこの話題……と、心の中でため息を吐いた。
「去年はフランスメーカーのチョコでしたけど、今年はどんなのにしましょう?」
「あー……そうだねぇ」
毎年うちの課は女性陣がお金を出し合い、感謝の意味を込めて男性社員に義理チョコを配っている。実際、男性陣は義理チョコなんてほしいのだろうかと思うけど、やめ時がわからず、だらだらと続いている。
「なんでもいいよ、私は。みんなで好きに決めて」
それだけ言ってデスクに着く。
「あの、樋山主任の分も数に入れていいんですよね?」
その名前にドキッとして、思わず背筋が伸びる。恐る恐る振り返れば、女子社員が私の方を一斉に見ていた。
……いやいや、その目、怖いですから。みんな自分が今どんな顔しているかわかってる?
「義理チョコはもらってこないでとか、独占欲丸出しなこと、言ってませんよね。先輩」
寧々ちゃんが目を細め、抑揚のない口調で言う。他のみんなの視線も冷たく突き刺さり、思わず目が泳ぐ。
「ま、まさか」
「じゃあ樋山主任の分も数に入れておきますからね」
断言され、思わず「はい」と返事してしまった。
樋山くんがロンドンから帰ってきて1年。私と彼のことはこの会社では周知の事実。とはいえ、恋人と同じオフィスで仕事をするというのは非常にやり辛いものがある。
こんな風に好機の目で見られたり、嫉妬されたり。二人で仕事の打ち合わせをしているときでさえ視線が痛いのだから。
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