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◇
「もぉー! なんなのこれ! 全然うまくできない!」
アプリ通りやるも慣れないせいか、全然うまくできない。チョコは固まるし、手はべとべとだし、キッチンは散らかりまくり。練習だけで疲弊しまくっている。何でも卒なくこなすタイプだが、まさかお菓子作りが苦手だなんて。
もう市販のチョコでもいいのではないか。そんなことを考えながら項垂れていると、
ピンポーン……――--
突如、家のチャイムが鳴った。誰だろうとインターフォンを見てみると、驚いたことに樋山くんだった。
今日来るなんて言っていたっけ? しかしタイミング悪いな。
お菓子作りの練習をしていたなんて言えるはずなく、慌ててキッチンを片付け、できそこないのお菓子を冷蔵庫に隠すと玄関を開けた。
「すみません、急に来ちゃって」
開けた瞬間、頭からポタポタと滴を垂らす樋山くんが立っていて、思わず大きな声が出た。
「ずぶ濡れじゃない。傘持ってなかったの?」
「はい。急に降ってきたんで」
「タオル持ってくるからそのまま待ってて」
大急ぎでバスタオルを持ってくると、大人しく玄関で待つ樋山くんに頭から被せる。
「夕方から降るって天気予報で言ってたじゃない。営業先からの帰り?」
「はい。そのまま直帰する予定だったんですけど」
なるほど。うちのほうが近かったというわけか。
「まったく」
がしがしと頭を拭いてあげながら小さくこぼすと突然、腰を引き寄せられた。
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