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「えっ、ちょ、なに?」
「佐和 さん、なんか甘い匂いします」
「そ、そう?」
樋山くんは私の髪に顔をすり寄せくんくんとまるで子犬のように嗅いでいる。
「おいしそう」
「やっ、ちょっとやめて、」
抵抗するも、首元に噛みついてくる。
「何してたんですか?」
「べ、別になにも。テレビ見てただけよ。とりあえず、シャワー浴びたら?」
上ずる声で言うと、濡れた前髪の隙間から視線だけ寄越す。その目が色っぽくてぞくりとしてしまう。
「佐和さんも一緒に入りましょ?」
「いやだよ」
「今さら照れなくてもいいでしょ。佐和さんの体なら隅々まで……」
「そんなこといいから早く入ってきなさい!」
啖呵を切ると、樋山君は「はーい」とちょっとふて腐れながら、浴室へと入って行った。全くあの男は。いつも私を振り回すんだから。
浴室のドアが開く音が聞こえてきたかと思うと、部屋着に着替えた樋山くんがほくほくした様子でリビングに入ってきた。
「コーヒー淹れたけど飲む?」
「はい、ありがとうございます」
言いながらソファに座る私の隣に腰を下ろす。そしてコーヒーに口を付けていた。
改めて付き合い始めてお互いの家を行き来することが多なり、最近ではうちに樋山くんの私物が増えている。歯ブラシから靴下、仕事用のシャツまであるから急なお泊りだって対応可能。
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