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翌朝。軽めの朝食を一緒にとり、家を後にする。あの不格好なお菓子たちはなんとか見つからず済んだからよかった。
「そういえば14日、あけてくれてます?」
会社に向かう途中、樋山くんがふと口を開いた。
「あー、うん」
「佐和さんが前行きたがっていたフレンチ、予約したんで夜食事しましょう」
たかだかバレンタイでフレンチ? しかもそこのお店、高級店じゃない。そんなところ用意しなくていいのに。それにそんな豪華な料理の後に私の不格好なお菓子は渡し辛い……。
「去年は一緒にいられなかったし、素敵な夜にしましょうね」
「……そうだね」
「昨日も熱い夜でしたけど」
「はっ? なに急に」
「佐和さんの全部が見られて、俺すげーこうふ……」
「こらー! 会社の近くで変なこと言わないの!」
とんでもないことを言いだすものだから慌てて口を塞ぐ。
「だって、本当のことだし。今思い出しても……」
「やめないと出禁にするよ!」
「ちぇー、わかりましたよ」
この人といると心臓がいくつあっても足りない。もちろん、色んな意味で。
「朝から痴話げんか? 仲良しねー」
言い合う私たちの傍を、透子が澄ました顔で抜かしていく。
「透子」
「あんたたち目立つからほどほどにね」
その言葉にハッとして当たりを見渡すと、いくつもの視線があった。しかも目が合うとさっと逸らされると言う、わかりやすい反応。
もしかしてさっきの会話聞かれた?
「嘘、最悪……」
「俺は佐和さんとだったら見世物でもなんでも構いませんけど」
「私はよくないわよ!」
「見せつけてやればいいんですよ。じゃあ俺、経理課に寄って行くので」
しかもあろうことか、樋山くんは青ざめる私を置いてビルの中へ駆けて行った。散々辱めを受けさせておいて、最後は放置!? あの男、許さん!!
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