「俺のこと、意識してますよね」

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彼の着任日まであっという間だった。 「みんなもう知っていると思うが、今日付けでここに異動になった樋山くんだ。今日からここの主任を任せることになっている。東雲さん、暫くは同行頼むね」 業務連絡を告げる課長の隣で、樋山くんが爽やかに頭を下げる。私もはい、と返事をすると頭を下げ返した。 その瞬間、誰もが哀れみのような目を向けた。主任補佐へと降格した私に同情しているのだろう。 自分でも思う。30歳間近で婚約者にフラれ、仕事にも裏切られ。こんな惨めなことはないと。だけど私には仕事しかない。惨めでもすがるしかないのだ。 「それでは今日も1日宜しくお願いします」 課長がそう締めくくると、朝礼は解散となった。各々デスクへつく。私もカチリとパソコンに電源を入れると、承認待ちの書類を手に取った。 自分の仕事以外に部下達の仕事にも目を通さないといけない。これが案外やっかいで、時間を取られる作業でもある。
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